韓国で働き始めた頃、会社には日本語から韓国語への翻訳を担当するパート社員の方がいました。
商品説明書やパンフレットなど、細かなニュアンスが求められる仕事を、長年支えてくれていた方です。
私は日本にいた頃から、面談をしたお客様には手書きのお礼状を出すことを習慣にしていました。
韓国に赴任してからも、その習慣だけは変えずに続けたいと思い、拙いながらもハングルでお礼状を書くようになりました。
とはいえ、自分の書いた韓国語が本当に失礼にあたらないのか、気持ちがきちんと伝わるのか、いつも不安がありました。
そのたびに、そのパート社員の方に文面を見てもらい、言い回しや表現を直してもらっていました。
立場としては社長でしたが、教えてもらうことばかりでした。
それでも嫌な顔ひとつせず、「こう書いたほうがやさしいですよ」「この表現は少し硬いですね」と、丁寧に教えてくれました。
そのやりとりを重ねる中で、仕事の話だけでなく、少しずつ日常の話もするようになりました。
文化の違い、考え方の違い、距離の取り方。
日本とは違うことばかりで、戸惑うことも多かった時期です。
そんな折、彼女が「よかったら主人を紹介しますよ」と言ってくれました。
旦那さんは日本で育った在日韓国人で、日本と韓国、両方の文化を知る人でした。
実際に会って話をしてみると、自分が言葉にできなかった違和感や疑問を、自然な形で説明してくれました。
それがきっかけで、仕事を超えた関係が少しずつ生まれていきました。
今振り返ると、すべての始まりは、ハングルで書いた一通のお礼状だったように思います。
正しく書くことよりも、気持ちを伝えようとしたこと。
そして、それを支えてくれた人がいたこと。
あの頃の積み重ねが、今も静かに続いているご縁につながっています。
